事例1:同じ注文管理でも二つの選択肢
ここからの企業や状況は学習用の架空例です。小売のA社は店舗と通販の注文をまとめたいと考えています。B社は受託開発を提案し、C社は既存のSaaSと導入支援を提案しました。どちらが良いかを事業モデルの名前だけでは決められません。まずA社の業務、必要な機能、既存のデータ、利用者、変更の頻度、運用体制を整理する必要があります。
B社の提案では、個別の業務へ合わせられる範囲、開発の期間と費用、変更の扱い、完成の条件、導入後の保守を確かめます。C社の提案では、標準機能に業務を合わせる部分、他システムとの連携、データの移行、利用料金、解約や切替の条件、導入後の支援を確かめます。初期費用だけでなく、運用と変更を含む範囲で比較します。
この演習の目的は、どちらかを正解とすることではありません。顧客の条件が変われば合理的な選択も変わります。A社が自社で持ちたい能力と、外部から利用したい能力を分けると、提案の違いを理解できます。企業を調べる際も「受託企業かSaaS企業か」という分類から一歩進み、どんな条件の顧客に価値があるかを説明してみましょう。
参照資料:What is the Cloud Adoption Framework?Architect multitenant solutions on Azure
事例2:契約数は増えたが赤字も増えた
新興SaaSのD社は契約社数が増えましたが、費用も増えて赤字が拡大したとします。この時点で事業が失敗とも成功とも断定できません。新規顧客を獲得するための販売費用、製品開発への先行投資、顧客ごとの導入支援、クラウド費用など、何が増えたかを調べる必要があります。売上の成長と採算は関係しますが、同じ指標ではありません。
次に、既存顧客が使い続けているか、利用を広げているか、導入支援が繰り返し必要かを確認します。顧客が定着し、共通の製品として効率よく提供できるなら、今の投資の意味を考えやすくなります。反対に個別対応が増え続け、顧客が離れているなら別の課題かもしれません。ただし公開情報で分からない部分は、都合の良い想像で埋めないようにします。
成長のメモには、契約社数の増加という事実、費用の増加という事実、会社の説明、自分の仮説、次回確かめる指標を分けて書きます。資金調達があれば、事業を続ける資金が得られた情報として追加しますが、顧客の成果や採算が確認された証拠には置き換えません。「伸びているベンチャー」を探す際に、何が伸びたのかを明示する練習です。
参照資料:Architect multitenant solutions on AzureWhat is the Cloud Adoption Framework?
事例3:AI機能を入れたら作業は改善したか
E社は問い合わせ文書の下書きを作るAI機能を導入しました。下書きにかかる時間は短くなりましたが、担当者は内容の確認と修正をしています。機能の効果を評価するには、下書きだけでなく、確認、承認、顧客への送付、その後の対応まで含む時間や品質を見ます。測る範囲を狭くすれば良い数字が出ても、業務全体の改善を表していないことがあります。
あわせて、AIが参照できる情報、利用者の権限、誤った回答の扱い、記録、責任者を確認します。試験利用で動くことと、長期間の本番業務で使えることは違います。提供するIT企業には、モデルの機能だけでなく、顧客の業務に組み込む設計や運用の支援が求められる場合があります。その支援に費用がかかることも、事業としての評価に含めます。
結果をまとめる際は、試行した対象と期間、利用した人数、測った作業、確認した成果、まだ分からない点を記録します。これは特定の企業や製品の評価ではなく、導入の発表を読むための練習です。AIを使ったという情報から一段ずつ具体化すると、技術の新しさと顧客にとっての価値を分けて考えられるようになります。
参照資料:「DX動向2026」広がるAI導入、DXは変われるかAzure Well-Architected FrameworkShared responsibility in the cloud
一社と一職種を自分の言葉で説明する
最後に実在する企業を一社選び、代表サービス、顧客、解く問題、提供方法、導入後の仕事、収益に影響する条件を説明します。会社全体の大きなキャッチコピーより、一つの製品や事業に絞ると書きやすくなります。会社の説明と自分の理解を分け、公開情報で確認できなかった部分も残してください。完全に埋まった表を作ることが目的ではありません。
次に、その事業に関わる職種を一つ選びます。誰と協力し、どんな成果物を作り、どの結果に責任を持つかを、募集要項や職種のページから確認します。企業が成長していることと、自分が希望する仕事をできることは別です。業務の理解、学習の機会、働く条件を組み合わせて比較すると、知名度や流行だけでは見えない違いが分かります。
最後に次の調査を一つ決めます。顧客の導入事例を読む、決算の部門別情報を確認する、別の事業モデルと比較する、必要な技能を学ぶなどが候補です。業界教材を読み終えたことを結論にせず、企業探索と自分の学習へつなげてください。後から情報が増えたら、事実と仮説を更新し、どの点の理解が変わったかを記録することで、業界研究を積み重ねられます。
参照資料:デジタルスキル標準「DX動向2026」広がるAI導入、DXは変われるかWhat is the Cloud Adoption Framework?
反対の説明も一度作る
企業の成長を説明できたら、同じ資料から慎重な見方ができないかも考えてみます。契約の増加には導入支援の負担が伴うかもしれず、共通製品の改善には短期の費用が必要かもしれません。悪い点を探すためではなく、自分の結論がどの前提に依存するかを見つける練習です。証拠がない部分を反対方向へ断定することもしません。
次回の確認資料を決める際には、仮説を支える情報だけでなく、見通しを変える情報も一つ挙げます。利用が続かない、提供費用が下がらない、顧客の対象が変わるなどが例です。結論を固定して関連記事を集めるより、条件を決めて調べ直す方が、企業研究を自分の判断として積み重ねられます。
参照資料:Architect multitenant solutions on AzureWhat is the Cloud Adoption Framework?
この章の要点
- 顧客の条件で提案の価値を比較する
- 成長と費用は両方の経路を調べる
- 企業と職種をつなぎ次の調査を決める
自分の言葉で考える
SaaSの契約社数が増え、赤字も拡大したとき、どのような調査が必要ですか。
考え方の例を読む
新規販売、開発、導入支援、基盤など費用の内訳と、顧客の継続利用や利用増を調べます。資金調達や契約数だけで採算の見通しを断定しません。
出典と確認時点
統計や企業の説明は、資料の対象時点と確認日を分けて読んでください。
- 「DX動向2026」広がるAI導入、DXは変われるか ↗情報処理推進機構(IPA) / 公表・対象日:2026-07-30 / 確認日:2026-10-31
- 「DX動向2025」日米独比較で探る成果創出の方向性 ↗情報処理推進機構(IPA) / 公表・対象日:2025-06-26 / 確認日:2026-10-31
- デジタルスキル標準 ↗情報処理推進機構(IPA) / 公表日の記載なし / 確認日:2026-10-31
- What is the Cloud Adoption Framework? ↗Microsoft / 公表日の記載なし / 確認日:2026-10-31
- Architect multitenant solutions on Azure ↗Microsoft / 公表日の記載なし / 確認日:2026-10-31
- Azure Well-Architected Framework ↗Microsoft / 公表日の記載なし / 確認日:2026-10-31
- Shared responsibility in the cloud ↗Microsoft / 公表日の記載なし / 確認日:2026-10-31
- History(Unix、C、通信技術の歴史) ↗Nokia Bell Labs / 公表日の記載なし / 確認日:2026-10-31